<物書き屋

自由奔放に

「ありえない」
「なーにが、ありえないのさ?」
ぼそっと呟いた弥生(やよい)を組み敷きながら、納継(なつぎ)は楽しそうににやりと笑う。
つい一分前まで、期末考査で赤点を取らないために一生懸命勉強していたはすだ。
なのに、必死になっている弥生の横で納継がにっと笑った。
「頑張ってるし、ご褒美上げようか」
「へ? ……う、うわっ」
――――。
そして今に至る。
自分の上で楽しそうに笑う家庭教師に、弥生はうんざりしたように睨みをくれる。
どんなに抵抗しても、性別も年齢も違う相手に力で適うはずがない。
それになにより、弥生自身は認めたくないけれど、この男の妖艶な瞳には首を振れなくなってしまう。
「先生、私の勉強は?」
「んー? 大丈夫。今日はたっぷり時間があるから」
そう、今日は両親が帰ってこない。
何年経ってもラブラブな二人は、高校生の娘を残して平気で旅行に出てしまう。
姉がいるから安心しているのだろうけど、その姉は両親の旅行に合わせて彼氏の家に泊まる。
実際、昨日は帰ってこなかった。
そして、家庭教師が来る水曜日、納継を止めるものは誰もいない。
「お姉ちゃん、帰ってくるかも……」
「ご両親の旅行はあと五日。いつもの事ながら、お姉さんが帰ってきた事はない」
いつまでも観念しない弥生の唇を、納継は自分のそれで塞いだ。
納継はキスも、その先も上手い。
始めは慈しむような柔らかい口付けで、弥生がもっと欲しいと思うと同時に深くなる。
角度を変えて、息もつけないほどに繰り返されるうち、弥生は体から力が抜けてしまう。
「ん……ふ……はぁっ」
唇が離れ、大きく息を吸った弥生を納継は優しく見下ろしてくる。
「可愛いな」
甘い声で呟いて指の背で頬を撫でられると、もう好きにして下さい、という感じでぼうっと納継を見つめてしまう。
「……っと……」
か細い声でキスの続きを要求すると、納継は顔を近づけて額を合わせた。
「俺のキスは好き?」
「ん……好き」
キスだけじゃない。
いじめてくる指も舌も、優しい瞳も、欲情する瞳も、すべて。
弥生の頭はキスでぼうっとしていて、もう抵抗する気力なんて欠片もないのに、納継はさっきまでベットに押さえつけていた弥生の手首にさらに力を込める。
それが少し痛くて顔を歪めると、近すぎてよく見えない納継が苦笑を漏らした。
「先週は、家族会議だっけ? それのおかげで家庭教師来れなかったし。ただでさえ週一じゃキツイのに」
そう不満を漏らしてから、深く口付けてくる。
「んっ……んんっ……ふぁっ……」
すぐに熱を持った舌が割り入って来て、歯列をなぞられ、舌を絡めとられて口腔を犯される。
それはいつもよりずっと激しくて、ずっと性急に弥生の快楽を引き出そうとする。
二週間ぶりの甘く痺れる感覚はいつもより強くて、手首を開放されても納継の首に腕を回し引き寄せずにはいられないかった。
鼻にかかった高い声が止まらず、それを気にする事も出来ないほど脳ミソが溶けてしまっている。
「んんっ……っはぁ……」
ようやく唇が離れると、二人の唇の間に透明な糸がいやらしく光った。
酸欠のような状態になって荒い呼吸を繰り返しながら、ふと上半身がブラだけになっている事に気付く。
「え……? ひゃぁっ」
思わず腕で胸を隠すようにしたが、一体どうやって脱がせたというのだろうか。
今日は色気もなにもないTシャツを着ていたから、脱がされれば気付くはずなのに、まったく気付かなかった。
見上げると、ふっと笑っている納継がいる。
「今更隠すなよ。一緒に気持ち良くなるの、好きだろ?」
「うっ……」
二週間前した時に、確かに弥生は夢中で納継にしがみ付きながらそう強請った。
それは覚えているし、嘘ではない。
けれど、納継のこの欲情した瞳で囁かれると、ただでさえ熱くなりかけている身体が一気に熱を上げてしまう。
首筋まで赤くした弥生の反応に満足したのか、納継はにっこり笑ってもう一度弥生の手首をシーツに押さえつける。しかも今度は片手で頭の上にまとめて。
「先生……」
「ん?」
呼べば返事を返してくれるけれど、その手や唇は止まらない。
弥生の手を拘束していない自由な片手が身体の中心に沿って胸の谷間や腹を往復し、唇は首筋や鎖骨に強く吸い付く。
「あ……っ……ね、センセ……んっ……なんか……」
「なに?」
あいかわらず優しい声が返ってくるけれど、動きを止めるつもりはさらさらないらしい。
「っ……玄関っ……閉めたよね……?」
「閉めたけど。どうした?」
肌の上を滑っていた手がブラのフロントホックを外し、上半身は裸にされてしまう。
「あっ……センセ……ちょっと待って……なんか、音っ……ぁっ」
まだ成長途中の胸をやわやわと解され、なんとも言えない感覚が背筋を走る。
けれど何か物音が聞こえる気がして集中できない。
「弥生、他の事考えるなんて、随分と余裕だな」
「えっ、違……ひぁんっ!」
手で揉まれているのとは逆の乳首を、口に含まれねっとりと舌で舐められて背筋が弓なりに仰け反った。
「センセっ、やぁ……やだっ、そこ……」
「イヤじゃないだろ。ちゃんと"イイ"って言えたら、もっとイイ事してあげるよ」
低い声で甘く吹き込まれてしまえば、罠だとわかっていても従ってしまう。
「んっ……い……いい……からぁっ」
もっとして欲しい。
熱い瞼を薄く開いて目で続きを要求すると、納継の喉仏が上下するのが見えた。
暑いのか、納継は元々いくつか外していたシャツのボタンをすべて外し、一度大きく息を吐いた。
けれど部屋はエアコンが効いていて、熱を孕んだ弥生の肌にひんやりとした空気が触れて少し寒い。
一瞬震えた弥生に気付いて、納継は大きな手で肌を撫で、もう片方の手で頭を撫でてくれる。
いつの間にか拘束がとれていて、弥生は無意識に納継のシャツに手を伸ばした。
「エアコン消すと暑くなるだろ。すぐ寒いのなんて気にならなくしてやるから」
そう耳元で囁かれ、深いキスを与えられる。
弥生は身体を繋げる行為よりも、こうしてキスに夢中になっている時が一番好きだ。
納継に触れられるのは好きだけれど、強く痺れる感覚にはまったく慣れない。
「んっ……やぁっ……やっ、も……やだ……んんっ」
敏感な乳首は納継の指にコリコリとこねられ、もう片方は口に含まれる。
それだけでも耐えられないのに、余っている片手が太腿を撫でる。
下半身は膝丈のハーフパンツで、色気の欠片もない事を確認してから履いたのに、納継の触り方は妙にじれったくて、もっと強い刺激が欲しくなる。
「あっ……はぁ」
胸への愛撫が下にずれていき、ハーフパンツを脱がされる。
布越しに撫でられ、ビクリと背筋が痺れる。
「ひゃんっ……」
「なぁ、こんなに濡らしてるけど」
にやりと笑った納継の指が何度かそこを往復し、弥生はそのたびに嬌声を漏らした。
「悪い、ホントに余裕ない」
「あっ……」
弥生が声を漏らすより早く、最後の一枚を足から抜かれた。
もう充分に濡れてしまっているソコを確認するように、骨張った指が差し込まれる。
「んっ!……はぁっ、んんっ……」
簡単に飲み込んで、弥生の意思とはまったく別のところで、貪欲に納継の指を締め付けてしまう。
「……大丈夫か?」
「ぁっ……な、に……?」
納継の確認の意味がわからなくて絶え絶えに聞き返すと、彼は苦笑して指を引き抜いた。
さっさとベルトを外して前をくつろげ、ポケットからコンドームを取り出す。
「っ……先生、もう……?」
「だから、余裕ないんだってば」
納継は苦笑して答え、弥生に覆いかぶさって口付ける。
「ん……ふ…………んんっっ!」
唇を塞がれて弥生が声を出せずいる間に、納継はさっさと自分のものを収めてしまった。
「やっ……信じらんないっ」
ダイレクトに伝わってくるその感覚と性急さに文句を言ってみるけれど、納継は意に介さない。
「そんなに可愛く喘がれたら、我慢も何もないだろ?」
妖艶な瞳を細めて低い声で囁かれると、それだけでも感じてしまう。
それはしっかりと納継に伝わってしまって、にやりと笑われる。
「はぁっ……あぁっ、や……な、つぎ……センセっ……きもちいっ……」
激しく奥を突かれて、彼の首に腕を回ししがみ付く。
そうすると耳元に納継の唇があって、荒い呼吸を吹き込まれ、耳朶を甘噛みされる。
「あぁっ……もっ……イッちゃうっ……」
「……っ……そんなに……イイか?」
もう少し、というところで動きが緩くなり、快楽を求めて無意識に腰が動く。
本人がそれを自覚しないうちに、弥生の顔にキスを降らせながら納継が意地悪く笑った。
その意味と自分の行動を悟って、弥生が言い返そうとした時、不意打ちでさっきよりも強く突かれる。
「あぁんっ……も、ずるっ……んぁっ…………やっ、へん……ダメッ」
「……っく……やらしいな……すごい、締め付けてくる……」
眉間を寄せて荒く息をつく表情が、妙に色っぽい。
言葉や熱を持った瞳にすら感じてしまって、絶え間なく与えられ続ける甘い痺れに耐え切れない。
言われる傍からまた締め付けて、納継の眉間がさらに寄せられる。
「んっ……あっ、あぁっ……も、ダメ……イッちゃうよっ…………んっ!!」
「っ……俺も……っっ!!」
弥生の絶頂の波が納継のソレを締め付け、ほどなくして納継も果てた。
エアコンの効いた部屋で二人とも息を乱して、まだ整わないうちに納継は弥生の顔にキスを降らせた。
「はぁ……やっぱ、弥生は可愛いな」
「可愛い可愛いって…………たまにはキレイとか、言ってみようよ、先生」
少し唇を尖らせて言うと、納継は身体を離しながら優しく笑う。
「何言ってんだ。俺は滅多に、可愛いだのキレイだの、言わないんだぞ」
「嘘。いつも可愛いって言ってるくせに」
家庭教師を始めた最初の日から、来るたびに納継は『可愛い』を連呼している。
絶対に嘘だ、と目で訴えると、汗をかいたシャツを脱ぎながら納継は降参したように苦笑する。
「弥生を褒めるにはどの言葉がしっくり来るかって考えたら『可愛い』だったんだよ。大丈夫、もう少ししたら絶対美人になるから」
「……お世辞? それとも、恋は盲目?」
むぅっと頬を膨らせながら上目遣いに見上げてみる。
すると納継は一瞬きょとんとして、すぐににやりと笑ってもう一度弥生を押し倒す。
「わっ……?」
顔を上げると、すぐそばで熱を持った瞳が意地悪く笑っている。
「盲目の方が俺は安心できたよ。実際可愛いから、変な虫がつかないか心配で心配で、痕を残さずにはいられないんだろ?」
妙に色っぽい表情も、低くて甘い声も、頬を撫でる指も、すべてに羞恥が湧き上がってくる。
納継の言葉に誘われるように自分の身体に目をやると、いつも以上にたくさんの紅い痕が残されている。
「ひあぁっ! なんでこんなにっ!?」
「だから、独占欲そそるんだってば、弥生は」
慌てる弥生を尻目に、納継は起き上がってしれっと答えた。
「プール行けないじゃん!」
「行くな行くな。他所の男にわざわざこのキレイな肌を晒しに行くことない」
はっはっはっ、と上機嫌に笑う納継にはもう何を言っても無駄な気がするが、言わずには言われない。
「夏なんだよ!? 暑いじゃん!」
弥生が訴えると、一瞬考える素振りをした納継がポンと手を打った。
「そうだな、暑いな」
「でしょ? だから、こんなの付けられたら……」
「エアコン効かせても汗はかくからシャワー浴びなくちゃいけないし。いっそ水の中の方が面白いかな」
「…………何の話?」
会話が噛み合っていないような気がして恐る恐る聞いてみると、さも当然の如く答えてくれる。
「何って、水の中でセックスしたら冷たくて気持ちいいんじゃないか?って話」
「…………」
あまりに突飛な内容を頭が上手く理解できず、きょとんとする。
しかし理解できていくにしたがって顔に熱が溜まっていくのが自分でもわかる。
危うく想像しかけて、弥生が放心していると、その頬をツンと納継が指で突付く。
「そんな顔もそそるねぇ。も一回しようか」
「へ? ……ちょっ、あっ!」
なし崩しにまたベットに押さえ込まれたとき、不意にバンッとドアを蹴破る音に二人の動きが止まった。
「……この……っ」
ドアの前で、鬼のような形相で立っていたのは、両親の不在にはずっと彼氏の家に泊まって帰ってこないはずの、姉だった。
「お……ねえちゃん……」
突然の事態を上手く理解できない弥生とは対照的に、納継は深く溜め息をついて前髪をかき上げた。
「やっぱさっきの物音はあんたか。くそ、チェーンロックもかけときゃよかった」
「この……ヘンタイ家庭教師!!」
妹を大事にする、不良な姉の怒号が響き渡った――。



------------------------------------------------
めずらしく1話ものを書いてみました。
っていうか、ただ中途半端に終わらせてるだけな気もしますが……。(汗)
「家庭教師と生徒」は一度書いてみたかったので。(笑)
タイトルの「自由奔放に」ってのは、実はこの話のタイトルではなくて、
ただのコンセプト(?)なんですよ。
スランプ気味だったんで「とにかく思いつきで書いちゃえ」のノリです。
ただタイトルどうしようか、と考えて思いつかなかったのでそのまま。(汗)
------------------------------------------------

<物書き屋
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送