日常の中で

密はいつものように通常時間に仕事を終わらせ、帰り支度を始めようとしていた。
「待ってよ〜、ひそかぁ」
そしていつものように都筑が机に書類の山を乗せて、えぐえぐと泣きながら密を呼び止める。
「知るかっ! 居眠りしてるのが悪いんだろっ!」
いつものごとく都筑は仕事中に居眠りをしていたのだ。密にこずかれても、巽に説教されても。
「そんな〜、いいじゃん少しくらい待ってくれたって……イダッ」
もう100才も越えているのに年端も行かない密に子供のように泣きね入りしていた都筑の頭を巽が書類の角で叩く。
「なにすんだよ〜、たつみぃ」
膨れっ面で頭をさする。
「あんたって人はまた黒崎君に迷惑をかけてっ!!」
ほぼ毎日これが繰り返されている。召喚課の慣例行事(?)になっている。

「だってぇー……」
「だってじゃありません!」
密はそろそろで火の粉が飛んでくる頃なので、その前に立ち去ろうとした。
ガバッ
「うえ〜ん、密ぁ〜、巽がいじめるぅ〜」
「わっ、バカ、放せっ!!」
逃がすものかと都筑が後ろから抱きついて来た。
「「わっ……」」
都筑と密が同時に声をあげた。
密は都筑が抱きついて来た勢いで前に倒れそうになり、都筑はそれに驚いたのだ。もちろん、都筑がおさえたので倒れはしなかったが。

シーン。
一同静まり返る。
都筑が密に抱きつくのも日常茶飯事だが、それを支えられない程密も力が無いわけ無い。
それでもそういう時がたまにある。原因は、
「密、もしかして疲れてる?」
過労である。
そして、こういう時に限って勘の良い都筑に密は苛立つ。
抱きついている姿勢はそのままに密の顔を覗く都筑。
「……うるせーなっ!! 誰のせいだと思ってんだよっ!!」
顔を赤くして言う密のその表情と言動からみんな、少しずれた解答を導き出す。違うとも言い切れないが。
「なんや都筑、少しは我慢せい言うたやろ〜」
亘理が苦笑いで言うと、都筑が心配そうに密の顔を覗き込む。
「へ? なに密、もしかしてそれで疲れてんの? じゃ、俺のせい?」
ほぼ全員が同じ事を考えていた事がエンパスにより密に伝わる。
「ッ、何考えてんですかっ!! 俺はいつもいつも都筑に」
「「いつも!?」」
亘理と巽が同時に声をあげる。
「っっっ、違いますってば!! おいっ都筑いい加減はなせよっ!!」
密がこれ以上無いくらいに真っ赤になって怒鳴る。
「こいつの残業手伝って……ッ」
「密っ」
頭に血がのぼり過ぎたのか、密は目眩がしてクラッと揺れる。
都筑が支えて顔を覗くと気を失っていた。
「……ん〜っと、巽、俺密の看病するからもう帰るね」
そう言って、自分の荷物と、密の荷物をまとめて、密をだっこして文句を言われない内に走って逃げてしまう。
「「「………………」」」
一同また沈黙。
「明日は坊欠勤かもな」
「……まったく……」
二人は呆れて自分の仕事に戻る。



「ん〜、俺最近キツくしてるつもりは無いんだけどな」
密の寝顔を眺めながら、頬杖をついて言う。
密の家に帰って来て、密をベットに寝かした。
キツくするどころか最近は翌日に仕事のある日はしないように心がけている。残業もいつも密が手伝ってくれるおかげで一、二時間で終わる。そんなに疲労になるような事はしていないはず……。
都筑は密の疲労の原因となりうるものを探すが、とくにこれと言って無い。


「ねぇ、ひそかぁ。そんなに疲れさせるような事、俺した?」
密が目を覚ましてから、出前をとっての夕食中、都筑が小首をかしげて聞く。
「なんだよ、それ」
「だから、密が疲れてる原因」
「……残業手伝ってるからだろっ」
プイッとそっぽを向いて素っ気無く言う密に都筑は困った顔をする。
「最近はそんなに量多くないでしょ?」
「…………」
都筑の問いに対して無言の密の表情を見た都筑は、残業や自分との行為が原因では無い事を勝手に確信する。
「ねぇ」
「…………」
「ねぇったら」
さっきから無言になってしまったので都筑は自分が何か密の勘に触るような事を言ってしまったのかと心配になる。


「お前、今日泊まってくのか?」
「? うん、なんで?」
御飯を食べ終わってから、ソファーに座って本を読んでいた密が活字を追いながら聞く。
都筑は密の隣におとなしく座っていたが、はじめは健気に待っていたのだが構ってくれないので、読書の邪魔にならない程度に色素の薄い髪を梳いて遊んでいた。
「だったら先に風呂入ってこいよ」
何故か密は都筑の前には入らない。
「……ねぇー、たまには……いてっ」
全部言い終わる前に猫パンチをくらう。
「なんだよー、まだ全然言い終わってないのにぃー」
「ヤダ」
本から視線をはずして都筑を睨む。
「早く入ってこいよ」
「はーい」
なんとも情けない声で返事をして都筑は風呂に向かう。
「はぁ……」
その背中を見送って溜め息をつく。
「……本の読み過ぎ……なんて言えないよな……」


「疲れてるのに本を読むなんて……返却日が近いのかな……?」
都筑は浴槽に浸かりながら腕を組んで考える。
そういえば最近は休み時間にもむつかしい本を読んでいる事が多いな、そんなこんなを考えている内にのぼせそうになったりしている。

風呂から出て、冷蔵庫からビールを取り出していっきに半分以下にしてしまう。
リビングに行くとさっきまで座っていたソファーで密は眠ってしまっていた。
「ちえ……」
せっかく風呂から出たらたくさんじゃれつこうと思っていたのに、と心の中で不満をもらしながらも、密を起こしてしまわないように気を付けてベットまで運ぶ。
「……ん……」
「あ、ごめん、起こしちゃったね」
ベットに下ろすと密がうっすらと目を開けた。起きているのか寝ているのか分からないくらいに。
今日はもう寝てしまおうと電気を消そうとしたが、密が止める。
「ん、まって……」
「何? 疲れてるんだからもう寝ちゃおうよ。お風呂は朝は入ればいいし」
「本……」
「本?」
トロンとした瞳と呂律のうまく回らない声で話す密は都筑にしてみれば誘っているようにしか見えない。
「……明日返す本……後少しなんだ……」
「……密、もしかして疲れてるのは急いで本を読んでいたから?」
眠い時はいやに素直な密はコク、と頷く。
都筑は呆れて溜め息をついた。
「あのね、密。いくら返却日に間に合わないからって無理して読んだんじゃあ、読書の意味がないよ? 本の返却日より自分の身体を大事にしないと」
密の髪を優しく梳きながら、優しく言う都筑の言葉を、密はポヤンとしながら一応聞く。そして素直な意見。
「……都筑の残業……手伝ってたら……読めなかった……」
「えっ、あ、ごめんごめん。じゃあ、やっぱり俺のせいじゃん。あっ、でも今度からは無理するなよ?」
「ん……」
頭を撫でられ、密は気持ち良さそうに目を閉じ、再び眠りについた。
「おやすみ、密」


密が具合を悪くするのも、何だかんだ言いながら残業を手伝ってくれるのも、すべて「日常」。

俺が密に甘えるのも、密が俺に甘えるのも恋人として当然の「日常」なのだ。

明日もいつもの日常が始まって、そして少しの意外があれば、それは幸せなんだ。

たまに大きな刺激があればもっと「日常」が幸せになるんだ。

君とのこの暮しが俺にとっては幸福なんだから。


コメント:
……話がまとまってねぇよ、おい。
書いてたら話が二つ浮かんできて、決めかねたので両方書きました。
さらに最後を少し改良しましてね。
最後の都筑さんの台詞は友人の理想の人生だそうで、勝手につかわして頂きました。



闇末目次  TOP


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送