気分は晴れで 4


「雨、ひどくなったみたいだね」
戸から外を眺めた都筑がそう呟いた。
「ふーん」
密は素っ気無く返して本に視線を戻す。
「そんなに怒らなくても……」
不機嫌そうな密に苦笑いして都筑が言うと、密は完全に背を向けて、無視を決め込んだらしい。
密が不機嫌な理由も最もだ。
都筑にはやし立てられて散歩に行こうと外に出た瞬間に通り雨の如く雨が降り出し、しかもいっこうに止まないのだ。
「別に怒ってない」
「……そう? 明日晴れたら散歩行こうね」
にっと笑ってあやすように言うと、キッと密が睨みつける。
「ガキ扱いすんな!」
そう言って投げつけたのは、近くにあった装丁も立派な分厚い辞典らしき本。
「いだっ」
額に命中して都筑はうしろ倒れになった。
上体を起こして額を擦る都筑に第二投。
「あぶなっ! ――〜〜密! シャレになんないから! 次ぎ喰らったら俺死ぬって!」
必死に訴えてもフンと鼻であしらってそっぽを向く密に、都筑は少なからず命の危険を感じずにはいられなかった。


(むう、ふくれてる顔も可愛い……vv はっ、俺って実は同性愛もOK? 俺は異性愛者だと思ってたんだけど……。でも密って女の子みたいだしなぁ。いや、そこらの女の子より断然可愛いよな。肌白いし華奢だし。)
※どうでもいいけどこの国では愛に男も女も関係ない。一部の人は息子に良からぬ事を考える王様もいるし


「おい、何考えてんだよ?」
「はっ?」
さっきよりも怒った様子の密が不機嫌そうに聞いたが、都筑は素っ頓狂な声を上げてあたふたした。
「顔がにやけてる」
都筑は一瞬考えている事がバレたのかと思ったが、実は妄想していて気付かぬうちににやけていたようだ。
「なっなんでもないよっ」
都筑は慌てて頬を押さえて否定したが、密は興味が失せたらしい。
「あ、そ」
密は本に視線を落とし、部屋には沈黙が流れた。
読書好きの密は本さえあればいくらでも暇つぶしが出来るが、都筑は暇で仕方ない。
都筑は暇をもてあまし、なんとなしに密の横顔に目をやった。
「…………」
可愛い事この上ないその横顔に、都筑は思わず見惚れてしまった。
そのままジィーーっと見ていると、それに気がついた密の眉間に線が入る。
「何見てんだよ?」
不機嫌きまわりない表情と怒気の含まれた声に都筑はハッとして、苦笑いして誤魔化そうとする。
「い、いやぁ、なんでもないです。暇だからボーっとしてただけで」
都筑が言うと、密は一瞬考えて溜め息をついて本を閉じた。
「あれ、もう読み終わったの?」
「んなわけあるか。見られてると読みにくいんだよ」
見つめていたのが事実なだけに都筑はまったく言い返せない。
「お前、巽さんと亘理さんとどういう関係なんだ?」
思い出したように密が聞いた。
「ん〜と〜……なんで?」
都筑は言葉に詰まっての苦し紛れという感じで聞き返した。
「だって、巽さんも亘理さんも頭良いし、術使えるし、父様のお気に入りだし。お前じゃつり合わないというか……」
最後口篭りながら密が言うと、都筑はシュンとなって犬化して泣きまねをする。
「うー、ひどいよぅ。そこまで言わなくてもいいじゃん、密ぁ〜」
情けない声を出す都筑に密はかなり呆れた様子で肩を竦めた。
「うるさい、とっとと答えろよ」
「うーっとねぇ……。昔はよく遊んだよ。二人ともこの辺の出だから」
「へぇ」
都筑は思い出して目を輝かせる。
「そうそう、よく亘理に誘われてイタズラしてね。で、必ずイタズラが成功する前に巽に見つかって説教くらうの」
えへへーと笑って見せるが、密の聞く限りでは単なる馬鹿だ。
「バカか。学習能力ないだろ、お前」
「ひっどーい。俺が馬鹿なんじゃないんだよ。巽の勘が良すぎるんだよ!」
「どっちでもいいけどな。しかし亘理さんのイタズラ好きは昔からなのか……」
密は少しうんざりしたように呟いた。
「って事はお城でもイタズラするんだ?」
「研究中だから立ち入り禁止、とか言って研究室に閉じこもって変な薬作っては、誰かに飲ませて実験してる。俺と父様はなんとか免れてるけど」
余程恐ろしい光景を思い出したのか、密は苦笑いも出来ないという風だった。
「そりゃ王様と王子様にそんなことしたら…」
「あと一歩のところでネコ化薬入りの紅茶を飲まされるところだった。父様の了解は取ってあったらしいから尚更油断できないし」
確かに密にネコ耳とか生えたら可愛いかも、などと考え付いてしまって、都筑は乾いた笑いしか出てこなかった。



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