気分は晴れで 3


「密、どういうことなの?」
巽達が帰り、出てきた密に全員困惑した様子を見せた。
「密君が王子様……?」
若葉が呟くように言った。
都筑はまだ信じられないといった様子で、巽に渡された写真と密を交互に見ている。
「黙っててすみません。でも……城には帰りたくなかったから……」
淋しそうに言う密に、皆どう声をかけるべきかわからなかった。
不意に思いついたような口調で寺杣が言う。
「ちょっと待て。じゃあ誘拐事件もお前が……?」
「違います! 確かに城には居たくなかったけど、あれは偶然です」
そう言って落ち込んでしまった密を見た都筑は、この状況の打開策として躊躇いながらも口を開く。
「んーっと、密は城には帰りたくないんでしょ?」
都筑の問いの意味がよくわからなくてきょとんとしたが、とりあえず密は頷いた。
「……じゃあいいじゃない、ここに居れば」
「お前本気か!? 巽さん達にバレたらどうする気だよ!?」
「そうですわ! 王子様を誘拐した事になりかねませんわ!」
皆であれこれと言って都筑を止めようとするが、都筑はまったく意に介さないらしい。
「じゃあ、密はどうするの? お城では部屋に閉じ込められてるんでしょ?」
その言葉に四人は返す言葉が浮かばなかった。
都筑の言い分は半分正論だ。
「密は戻りたくないって言ってるのに……可哀想だよ〜」
犬化して訴える都筑に、本当に反応に困ってしまった四人は顔を見合わせて溜め息をつく。
「しょうがないよ。密君は帰りたくないって言ってるし、都筑さんもこう言ってるし……」
若葉が半分諦めたように言うと、他の三人は渋々という様子でまた溜め息をついた。
「それに。見つかった時はその時で、どうにかしてくれるわよ、巽さんが」
「そうだよねっ。巽だって悪魔じゃないんだし」
ねぇ? と目で密に訴えると、コクっと小さく頷いた。
「悪魔だったらどうすんだよ」
寺杣がマイナス思考でボソッと言うと、もちろん若葉に睨まれた。
密は一瞬俯いて、半分自分に言い聞かせるような感じで呟いた。
「確かに巽さんや父様は俺が頼めばそんなに怒らないだろうし……」
その言葉にその場に居た全員が一瞬固まった。
「なんだ、それならそう言ってよ密ぁ〜。ちょっと真剣に考えちゃったじゃん」
都筑が苦笑いして言うと、寺杣が怒鳴る。
「ちょっとってなんだお前! こいつが可愛がられてなきゃ死刑だったかも知れないんだぞっ!」
「うるさいな。いいだろ別に! お前にゃ関係ない!」
「んだとテメェ!」
やはり仲の悪いこの二人を同じ空間に置いておくんじゃなかったと、かなり反省しつつ、若葉達はチラリと密を見遣った。
思ったとおり、拳をワナワナ震わせた密が思い切り怒鳴る。
「いい加減にしねぇかテメェ等っっ!!」
(密君がコワイ密君がコワイ……)
弓真さやはまた小さくなってビクビクしているが誰もそんな事気にしちゃいない。
「だってだって寺杣がぁー!」
「なっ、人のせいにしてんじゃねぇー!」
怒鳴ってもまだ喧嘩している二人に、密は都筑の襟元を掴んで往復ビンタを食らわせ。
ベチベチベチベチベチ!!
寺杣に対しては物凄い睨みとともに手を向ける。
「触るぞ!!」
「「ゴメンナサイゴメンナサイっ!もう二度と致しませんっ!」」
うまく(?)喧嘩を収めた密を見た若葉と弓真さやは巽がしっかりと教育している事を思い知った(笑)


「そろそろ帰った方がいいんじゃない?」
都筑の提案に外に目をやると、既に日は暮れかかっていた。
4人はそれに気付いて帰り支度をはじめた。
忘れかけていたが今日は密の全快記念兼歓迎会をしていたのだ。
「ごめんね、騒いじゃって」
不意に若葉が密の顔を覗き込んで謝った。
「い、いえ、別に俺は……」
「そうだよ若葉ちゃん。ここは俺の家。散らかされたのも俺の家」
涙ながらに訴える都筑に、とりあえず部屋を見回してみると、まったくひどい有様だった。
あれだけ暴れたのだから当然かもしれないが、片付けないわけにもいかなかった。
「ああ、密さんは座ってて構いませんわ」
「そうそう、今日の主役なんだから」
そう言って密は皆がせっせと片付けているというのに座らされた。


皆帰って部屋は静かになった。
密は部屋の中に散乱していた本を物色して読書中で、都筑にはとても邪魔できない。
ということで都筑には嫌でたまらない沈黙が部屋を占めている。
む〜、と考えていた都筑だが何とか一案ひらめいた。
「えっと、密」
「なに」
本から視線を外さないで返されて何気に傷ついたがそんな事はおくびにも出さないで言う。
「散歩でも行かない? このへん案内したいし」
なんとなく断られる気がして弱気な口調で言ったが、密は少し考えて今度は顔を上げた。
「別にいいけど。でももう暗くなるだろ」
意外な密の返答に、都筑は嬉しくなってニコニコ笑った。
「大丈夫。夜は夜で良いんだよ」
そう言った都筑の声は子供のようにはしゃいでいるようで、密はわずかに笑みを漏らした。



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