気分は晴れで 2


「はぁ、なんだったんだろうなぁ、あの若葉ちゃん達の態度は」
若葉達に追い返された都筑は首を傾げながら家に戻ってきた。
家に入ると、密は布団にもぐっていた。
「ただいまー」
なんとなく起きている気がして密に向かって言うと、怪訝そうな顔をしで密が起き上がった。
「……ご飯つくりに行ったんじゃ……?」
五分も立たずに帰って来て、しかも手には何も持っていないのだから密の反応は当然のものだろう。
「え、うん。それがさぁ、同じ長屋の友達に君の事を話したら自分達が作るって言って追い返されちゃった。何でだろうね」
ポリポリ頬をかいて言う都筑に、知るか!と心の中で文句を言いながら、この後どうするべきか考える。
密を溺愛している国王はさぞかし心配しているだろう。しかし密としてはあまり帰りたくない。帰っても自室に閉じ込められるだけだろう。散歩中に誘拐されてしまったのだから当然だろう。
密がぼおっと考えていると、都筑が覗き込んでくる。
「?」
その行動にきょとんとする密に、都筑は心配そうに言う。
「寝てた方がいいんじゃない?ぼおっとしてるし」
どうやら熱のせいでぼんやりしていると思ったらしい。
「いや、ちょっと考え事をしてて」
密がそう言うと、都筑は優しく笑った。
「そういえばまだ君の名前聞いてないんだ」
「あ……密……です」
「密かぁ。いい名前だね」
都筑は人懐っこい笑顔で嬉しそうに言った。
何が嬉しいのかわからないが、密は内心ほっとした。もし苗字を聞かれてしまっては答えないわけにはいかない。だが答えると王族だということがバレてしまう。
都筑が名前の話をそれで終わりにする様子に、密はほっとして深く溜め息をつく。
「ねぇ密、家はどこ?家の人心配してるんじゃない?」
「…………あの人なら心配しすぎて城中右往左往して仕事を大幅に遅らせてさらに気が滅入って家臣の人達にめちゃくちゃな命令して国中大混乱にさせても誰も驚かねぇな、きっと……」
「へ?」
ボソッと言った密の言葉が聞き取れなくて都筑が聞き返すが、密は顔の前で手を振る。
「いっ、いえ、なんでも、ないです」
密は城に戻ったときの事を考えてわずかに俯き、独り言のように言葉を発した。それは都筑も、そして密自身驚く言葉。
「俺……帰りたくない。帰ったってどうせ部屋に閉じ込められるだけだから」
何言ってるんだ、と自問自答したが、都筑の反応が気になって恐る恐る都筑を見る。
微熱のせいか少し潤んだ瞳、紅みのかかった頬は煽情的で、都筑は気が気でない。
「えっと……そんなにヤな所なの?……その、うちでよければ居てもいいよ……?」
恐る恐る、といったふうに都筑が言った。
「…………いいの?」
心なしか明るくなった密の顔を見て都筑は優しく微笑む。
「こんな家でも良いならね」

コンコン

「あっ、若葉ちゃんかな」
都筑が立ち上がってドアを開けると
「都筑ちゃーん!」
飛び込んできた弓真とさやが都筑に抱きつく。
「弓真ちゃんさやちゃん……どうしたの?」
この二人の過剰なスキンシップにはもう慣れた都筑は苦笑いしながら、弓真とさやの後ろに申し訳なさそうにしている若葉と、至極不機嫌そうな寺杣に問う。
「ごめんなさい、つい話しちゃって」
「で、美人な病人はどこに居るの?都筑ちゃん」



「もー、二人がしつこく騒ぐから熱上がっちゃったじゃない」
体温計を見ながら溜め息混じりに言って都筑は苦しそうな密を見る。
密は散々弓真さやに遊ばれしまい、微熱が高熱に急上昇してしまったのだ。
「「ごめんなさーい」」
弓真さやは正座して申し訳なさそうに謝る。
「でも一気にこんなに高熱になるなんて」
若葉が首を傾げて言うと、密は律儀に返事をする。
「そういう……体質、なんです。でもすぐ治ります、から」
熱のせいか頬が赤く、瞳を潤ませ苦しそうな密は誰がどう見てもすぐに治るなんてものではない。
「おい、また暴れ出さねーうちにその二人追い出した方が良くねーか?」
「あたし達をお邪魔虫のように…」
「いや、邪魔だから」
都筑は即座に切り返すと、若葉とともに弓真とさやを、しばしの攻防戦の末になんとか追い出す。
「じゃあ、私達も帰ろうか。始ちゃん」
「おう」
「ごはんありがとーね」
既に外に出た若葉と寺杣に都筑が手を振ると、都筑の言葉で大事な事を思い出した若葉が振り返って言う。
「都筑さん、ご飯だけは作ってあげちゃだめよ?密君にご飯が必要な時は私に言って?」
「え?なんで?」
都筑はきょとんとした顔で首を傾げた。
「え……なんでって……」
「病人が食ったら死ぬからに決まってんだろうが。……っで」
「じゃ、そういうことで」
さらっと言ってのけた寺杣に思いっきり突込みを入れて若葉はそそくさと寺杣を引っ張って帰っていった。
「……寺杣め、失礼な奴だな」



―次の日
「ホントだ。もう熱低い」
都筑は体温計を見ながら苦笑いする。
密の宣言どおり、昨日の高熱は微熱に戻っていた。
顔色もかなり良くなっている。
「すごいねぇー。不思議だ」
都筑は本気で関心していたのだが、密からすれば呆れられているように思え、なんだか苛立つ。
「だから、昨日言ったじゃないですか」
「……何怒ってるの?」
「別に……」
上体を起こして俯いたままの密の顔を覗き込むが、反対を向かれて表情が見えない。
「うーん。今日はとりあえず寝てた方がいいかな。まだ熱下がりきってないし」
「でもずっと俺布団占領しちゃってるし…」
ぱっと顔を上げて言う密に、都筑は悪戯っぽく笑ってみせる。
「え〜、だって君女の子みたいで同じ布団に入ったら理性が…」
ドガッ
「誰が女顔だ!!それに一緒に寝るなんて言ってねぇだろうが!!」
顔面に思いっきり猫パンチを食らい、顔を押さえてうずくまる都筑は声もでないようだ。
「〜〜〜っ、つーー。今本気で殴ったでしょ!?冗談だって冗談!」
いや、かなり本気だったんだけど、という言葉は飲み込んで、顔を擦る。



―さらに次の日
お祭り好きの弓真&さやの提案で、密の全快記念兼歓迎会を開く事になった。
寺杣と若葉も呼ばれ、若葉と主役であるはずの密以外は騒ぎまくっている。
「ぷはーっ!久しぶりの酒だぁ!」
「オヤジ……」
(こいつ26とか言ってたけど中身は完全にオヤジだ、絶対)
酒を煽ってはしゃぎまくっている都筑に、密は呆れて呟き、心の中で毒づいた。
「まったくだ。実は50歳っつっても驚かねぇ」
密の呟きを聞いた寺杣が、密以上に呆れた視線を都筑に送って言った。
もちろん都筑が聞き逃すはずもなく、さっきまでの至福の笑みはどこへやら、キレた目で寺杣を睨む。
「なんだと寺杣!俺のどこが50だって!?」
「全部だ全部!!自覚ねぇのか、余計悪いぜ!」
「お前になんか言われたくないね。女の子に触れないくせに若葉ちゃんと同居しちゃって平気なんてもう”不能”になったのか?」
「関係ねぇだろ!!」
低レベルな喧嘩はどんどん話が逸れる。
「密君、あの二人の喧嘩に参加しちゃダメよ?」
若葉が都筑達を指差して笑顔で言った。
「しませんよ。……いつもああなんですか?」
「顔会わせる度に喧嘩してるわ」

10分後、一向に喧嘩をやめない二人に、ついに密の怒りが頂点に達した。
「いい加減にしやがれてめぇらーっっ!!!」
(「闇の末裔6巻」参照・笑)
弓真&さやは部屋の奥で縮こまって震えている。
(密君が怖い、密君が怖い、密君が怖い)

実は今朝、パーティーのため密が若葉達を呼びに行った時の事、つまづいてコケた密が寺杣に寄りかかる形になり、その際向けられた上目遣いの瞳に悩殺(?)され変身してしまったのだ。
なのであの脅しが通用してもどこもおかしくない。


コンコン―
パーティーがまた静かに盛り上がり始めた頃、戸を叩く音がなり皆無言で戸を見る。
「んー、誰だろ」
少し酔い気味の都筑がぽけーっとしながら出ようとすると、密が慌ててそれを止める。
「都筑!」
「なに?」
戸に手を掛けた都筑が振り返ると、密は切羽詰った様子で立ち上がる。
「……ここには俺は居ないって言えよ!?」
そう言って、玄関から死角になる場所に隠れる。
「え?なに?」
意味がわからず皆”?”を浮かべたが、とりあえず都筑は戸を開けた。
そこには紛れもなく巽と亘理が立っていた。
「都筑さん……なんですかこの散らかりようは」
「なんやパーティーか?」
「わー巽さんだvv」
と言って弓真&さやは巽に抱きつく。
「どうしたの?二人で来るなんで珍しい。……飲む?」
一応そう聞いて酒瓶を出すと、ベシッと巽にはたかれる。
「仕事できたんですよ」
「「「仕事?」」」
都筑、寺杣、若葉が同時に言った。
とにかく玄関先で立ち話もなんなので、家に上げ、正座した巽につられて全員が正座する事になる。
「実は…」
巽は小脇に抱えていたファイルから一枚の写真を取り出し、都筑の前に差し出す。
「この方……密王子を探して欲しいのです」
「「「…………」」」
写真の姿と巽の言葉に一同一斉に静まり返る。
その写真には紛れもなく密が写っていた。
「…………は?」
「ですから、先日密王子は散歩中に何者かにさらわれてしまったのです。密様は生まれてから一度も顔も名前も公開していないので捜索は困難な状況にあるのです」
「せやから、お前に頼もうと思うてな。しかも発見した時の報酬はお前の仰山ある借金を一気に返済できるくらいの大金や」
「「「…………」」」
そしてまた沈黙、というより五人はすっかり固まっている。
「どうしたんですか?」
「せやで?あ、もしかして坊を見たんか!!?」
ガッツポーズで目をキラキラさせる亘理に、やはり五人は言葉も出ない。
「え、えっと、二人とも確か王子様の世話係やってるんじゃなかったの?」
若葉が機転を利かせて話をずらすと、巽と亘理は下を向く。
「その日は王に頼まれて出張に出ていたので」
「俺もその日は出張に見せかけてラボで研究しとったさかい…」
ゲシッ
「亘理さん、あんたそんな事が王に知れたら即刻死刑ですよ!?なんなら今すぐ私が処刑しますか!?」
青筋を立てた、なんてものでは表現しきれない、なんとも恐ろしい巽に、亘理は頭を抱えて怯えている。
「わ、わかったよ!その仕事引き受けるよ」
都筑がそう言うと、亘理は神に祈るかの如く手を組んで目を輝かせる。
「ホンマか!?よっしゃ、これで安心!!研究の続きを……い、いやなんでもあらへん、俺は何も言ってへん」
拳を振るわせて青筋を立てる巽に亘理が土下座しながら謝った。
「研究がなんですって?」
顔は笑っているのに目が笑っていない。
「わー、俺は何も言ってへん〜!まだ死にとうない〜!」



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