王子の機嫌・3


「はぁー」
休憩時間に、巽、亘理と共にお茶を飲んでいた都筑の、本日何度目とも解らぬ溜め息に、二人は怪訝そうに都筑を見た。
「なんや都筑、最近妙に溜め息多いで?坊となんかあったんか?」
少し楽しそうに聞く亘理に、待ってましたと言わんばかりに都筑が言う。
「聞いてよ。なんか最近密怒ってるんだ。ここで働き始めてからずっとなんだ。ねぇ、どうしたのかなぁ?」
都筑は犬耳を垂らして言うが、巽は茶を啜りながら言う。
「やはりたまに会ってこそ、だったんじゃないですか?そういうスリルが好きだと言う事かもしれないですし。それかあれですね。あんたのしつこさに嫌気がさしたとか」
「そんな〜〜」
「巽…まぁ、そんなにいじめんときや」
巽の言葉に瞳を潤ませた都筑を見て、亘理が笑いたいのを堪えて顔を引きつらせながら言った。
都筑は頬を膨らませて八当たりする。
「大体、どうして巽か亘理がいないと密に会えないんだよー。密は俺のなのにぃ」
「誰があんたのなんですか。怒るところが違うでしょう」
「せやせや。まぁ、坊は王様のお宝やからな。お前の『力』は信用できても、まだ『お前』は信用できんっちゅう事やろ」
都筑のふて腐れた顔の鼻をつんつん突付きながら亘理が言うと、都筑は益々頬を膨らませて抗議しようとした。
が、その前に巽が止めを刺す。
「都筑さんのような破壊魔では、流王の信用を得るなんて何年、いえ、何十年かかることか」
「………」
「巽、お前は相変わらず止め刺すの得意やな…」
亘理は泣き付いて来た都筑を引き剥がしながら言った。
巽を相手にして止めを刺されたら自分自身泣くかも知れない、と亘理は結構本気で考えていたりする。
「都筑さんも亘理さんも、そろそろ仕事に戻る時間でしょう。休憩は終わりです」
そう言って巽は立ち上がり、都筑と亘理も嫌そうに溜め息をついて巽に続く。
密の部屋に行く巽と、流王のもとに行く都筑と亘理はすぐに別れた。
「いいなぁ、巽は。密の教育係なんて……俺やりたいな」
「何教える気や。お前より坊の方が頭良いんやないか?」
溜め息混じりに言う都筑に、亘理は馬鹿かこいつ、と思いながら聞き返した。
「……あっ、あるよ、俺が教えられるの!性教い……」
ゴスッ
「んなこと教えんでいいわ、ボケ!!」



― 夜 ―
密の部屋に続く廊下を歩く都筑と巽。
「都筑さん、本当に心当たりないんですか?ここで働く事に関して密様の機嫌を損ねるような事」
「うーん……無い…よね。多分」
「まったく、あんたって人は。もう少し記憶力を付けた方がいいですよ」
呆れて溜め息をつく巽に、都筑はアハハと苦笑いするしかない。
「――あ」
急に大きめの声を出した都筑に、巽は怪訝そうな表情で続きを睨んだ。
「…どうしたんですか?」
「そういえばこの間会った時、密が城で働けばとか言ってて……たしか俺断っちゃったんだよ。ほら、巽に誘われた日」
それを聞いて巽は深く溜め息をついて、青筋を立てた。
「本当にあんたは馬鹿ですね!なんでそれくらい気付かないんですか!?密様が怒るのも当然でしょう!」
「えっ、ええ!?なんで?」
わけが解らないといった様子の都筑に、巽はもう怒る気もしないと言うように大きく溜め息をついた。
「密様の誘い断って私の誘い受けてたら密様だって怒るでしょう!」
「……あ、ああ、なるほど。そっか、そーだね。なるほどそれで怒ってたんだぁ」
ポンと手を突いて、納得した様子の都筑に、巽は眼鏡を押し上げ、前方に扉を見つけると、溜め息混じりに言う。
「ちゃんと説明して、謝るんですよ?」
「うん、わかってるよ」
巽は来た道を少し戻り、控え室のある方に行く。都筑は、いつもこの道を巽か亘理と一緒に歩くため、道を覚えていない。密に会うためには二人のうちどちらかがついていないといけないからだ。巽達は、都筑が出てくるまで控え室で待っていなければならない。
「密〜、入るよ?」
コンコン、とノックしてドアを開けると、勢い良く顔面に柔らかい物がぶつかる。
密が投げたクッションだ。
「うわっ、またこういう事するー」
顔面にぶつかって落ちたクッションを拾い上げながら都筑は苦笑いする。
「どうして毎回投げてくるのさ」
都筑は苦笑いしながら聞いた。
最近、と言っても王宮で働く事になってからなのだが、都筑が部屋に来るたびに何かを投げてくる。以前、時計を投げてきた時にはそれが額に当たってしばらく痛かった覚えがある。
密はソファに沈んで本を読んでいたが、都筑が近づくとウザそうに睨む。
都筑はクッションを元の位置に戻しながら密の顔の前に正座する。
「ごめんなさい!」
都筑が言うと、声が少し大きかったせいか、密は少しびくりとして不機嫌そうに都筑に視線をやる。
「なんだよ?」
「密、俺が密が城で働けって誘ってくれたのを断って巽の誘い受けたから怒ってるんでしょ?ごめんね?でもそれは誤解なんだ!」
捲くし立てる都筑に、密はソファに座り直し、少しキレた様子で都筑を睨む。
「はぁ?…何が誤解だって?」
「だからね、巽の誘いだって断ったんだよ、最初。でも巽が言うには、最近密がよく外出するから怒ってるらしいんだ。だから、それなら俺が城で働いていればそんな心配ないし、毎日会えるからって」
「おい」
説明する都筑に、密は怒っているわけではなく拗ねているような顔をした。
「……俺が誘った時はとりえないとか言ってたくせに…。俺は聞いてないぞ、十二神将なんて」
密はプイッとそっぽを向いてしまったが、都筑は不謹慎ながら
(か、可愛いvv)
など思い、同時に重症だ、と自覚する。
「そ、それは言う機会がなかっただけで…。それに巽に言われて知ったんだもん、式神使いが王宮で仕事できるって。ねぇ、密、機嫌直してよ」
都筑は困ったように上目遣いに密を見た。
「わかったから。そんなふうに見てきても気持ち悪いだけだからやめろ」
「密〜vv」
「わっ、やめろよバカ都筑!!」
密の抗議も聞かず、都筑は密に抱きついて、さらに押し倒した。
真っ赤になる密に、都筑は優しく笑って、額や瞼にキスを落とし、悪戯な笑みを浮かべて言う。
「ねぇ、久しぶりに、いい?」
「なっ!?何言ってやがんだ!!このエロジジイ!!」
密はこれ以上ないくらい真っ赤になって抵抗するが、都筑に通用するはずもなく、都筑は低く甘い声で耳元で囁く。
「ジジイって、ヒドイよ。俺の体力は身をもって経験してると思うんだけど?」
密はその声に弱く、抵抗が緩む。
都筑はまた悪戯っぽく笑った。
「エッチなのは否定しないけどね?」
「否定しろ!」
密は潤んだ瞳で睨みながら言ったが、それがさらに都筑をソノ気にさせていることには気づかない。
「なぁ…いいだろ?」
わざと口調を変えて言う都筑に、密はビクッとして完全に抵抗をやめる。
「……バカ……」
そっぽを向いて、消え入りそうな声で言う密に、都筑はふっと笑って密の唇に優しいキスを落とした。



BACK 闇末目次 TOP


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送