王子の機嫌・2


二人の男が、乳白色を主体に装飾された王宮の廊下を歩く。
「広いですから、迷子になんてならないで下さいよ」
眼鏡を押し上げながら巽が言うと、都筑は頭をかいた。
「…自信ないなー。でも本当に広いね。密もこんなところに住んでるんだー」
感心したよう言う都筑に、巽はボソリと言う。
「ほとんど出歩かないですが……」
「へ?」
「いえ、なんでも」
巽は、両脇に衛兵のいる扉の前で止まった。
「ここ?」
「まあ、ここと言えばここですね。開けてください」
都筑に曖昧に返事をして、衛兵に言うと、衛兵は扉を左右に開き、中に入る巽に都筑も続く。
中に入ってみるが、そこはなんの飾り気もない乳白色の廊下で、直線の向こうには曲がり角がある。
「なにこの廊下。なんか別れ道多いし。密の部屋は?」
この長い廊下を、何回も曲ったりしながらもう五分以上歩いている。
「別れ道は…まぁトラップみたいな物です。一つ間違えると待つのは”死”ですから」
「へぇ……」
しれっと言う巽に、都筑は顔を引きつらせた。
「流王は密様を溺愛なさってますから。密様は元々体が弱いので、流王も余計に過保護になってしまうみたいですよ。護衛なしでは自室からも出られませんし」
複雑な顔をする都筑をちらりと盗み見て、巽は眼鏡を押し上げながら小さく溜め息をついた。
「あっ、扉だ!ねぇ、あそこ!?」
瞳を輝かせる都筑に。巽は冷静に言う。
「ええ。ですが、あまり騒がないで下さいよ。普段この時間はお休みになられていますから」
そう釘をさしてドアを開ける。
そこに動くものは見つけられなかった。
密は、まるで自分はソファーだ、と言うかのごとく、ふかふかの大きなソファーに身を沈めていた。
本を広げて寝ているので、読書の途中で眠ってしまったんだろう事は容易に想像できる。
もっとも、密は寝るつもりで本を読んでいるのだが。
「はぁ〜vv密の寝顔って可愛い〜〜vv」
密の顔の前にしゃがみこんでそう言う都筑を、とりあえず無視して、巽はタオルケットを密に掛ける。
都筑は少し頬を膨らませ、嫌味をこめて言います。
「慣れてるねー、巽。いつもこんな事してるの?そういえばさっきも、今は寝てる頃、とか言ってたしねぇ」
「……何が言いたいんですか?」
明らかに嫉妬している様子の都筑に、巽はとばっちりを食らうのはごめんだったが、なんとなく都筑を言い負かさないといけないと言う使命感にも似た気持ちを覚えてあえて言い返す。
「いやね、巽があんまりにも甲斐甲斐しいんでね」
「密様の事は密様がご幼少の時から知っていますから。まあ、アンタよりは知ってると思いますよ?」
巽の言葉に都筑の眉がぴくりと上下する。もちろん巽の思惑通り。
「時間じゃないだろ!俺だって密の事良く知ってるもん!!」
「…う……ん…?」
密の微かな呻きに二人ははっとした。
一瞬二人とも密の存在を忘れていた。
密はのっそり起き上がって、まだ眠そうな眼をこすった。この時都筑が思った事と言えば、「猫みたいvv」ということである。
現状を把握しようと、ゆっくりした動作で巽を視界に入れ、次に都筑を見る。
密はそのまま止まった。
「おはよ〜vひそか〜vvv」
都筑はボーっとしている密に抱きついた。
「ん?……都筑?」
密はまだ現状を把握できていないようで、空<くう>を見る。
一瞬考えて、密は都筑に猫パンチを食らわせる。
「なんで都筑がこんなとこにいんだよ!?」
「ひそかー……なにも殴ることないじゃん……」
都筑は困ったように笑った。
それでも剥がれない都筑に、密は暴れると、深く溜め息をついて巽が都筑を引き剥がします。
「いい加減にしなさい。都筑さんは私が流王に頼んで城で働いてもらう事になったんです」
「そうなんだよ。これで毎日密に会えるねvv」


「だ〜か〜ら〜!巽がね、密が俺と一緒にいられるようにって、はからってくれたんだよ」
なぜか不機嫌な密に、一生懸命機嫌を取ろうと都筑が言った。
しかし一向に密は機嫌悪そうに都筑を無視して、立派な装丁の本の活字を追う。
「大体お前、なんの仕事なんだよ?」
活字に視線を落としたまま、不機嫌な声で密が言うと、都筑はしれっと答えた。
「何って、王様の護衛だよ?」
「は!?」
密はバッと顔を上げ、眼を見開いた。
「ほら、俺式神使いでしょ?」
「…知ってるけど…それくらいで父様の護衛になれるか?普通。いくら巽さんのコネだって無理だろ!」
「あのね」
都筑は少しふくれて言い返す。
「俺だって巽のコネだけで仕事しようなんて思ってないよ。俺が雇われた理由は、俺が十二神将を使う式神使いだから!」
力説する都筑に、密はきょとんとして首をかしげた。式神使いなら常識と言える名を上げたのだが、そんなもの使えない密には解らなくて当然だった。
「あのね、十二神将って言うのは、式神のトップの十二匹の事なんだよ。ね、これは俺の実力でしょ?」
式神を使うだけでも並ではないというのに、そんな事をしれっと言う都筑に、密はもう、驚きを通り越して呆れるしかなかった。
「…やってらんねー」
「あ〜ん、密〜、何で怒るの〜!?」
さらに機嫌を悪くした様子の密に、都筑は泣きついた。



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